ノルウェイの森

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

村上春樹作品はひと通り読んでいたのだけど、どういうわけかこの作品だけは手をつけていなかった。いちばんのベストセラーとか聞いていたから例によって天邪鬼精神が働いたのかもしれない。
思ったより登場人物が多かったのが印象的だった。永沢さん、キズキ、直子、突撃隊、ハツミさん、緑、レイコさん。どのキャラも魅力的に肉付けされていて、特に前半の方の緑の発言には何度も笑ってしまった。それに加えて新宿や大塚といった今の自分に身近な地名が出てきたこともあって、全体的に暗いトーンが漂う作品にもかかわらず、いつもよりだいぶのめり込んで読めた気がする。直子に待つと約束したくせに、緑の存在も大事に思ってしまうくだりは痛いくらいによくわかる。
この人の作品は、いつも何かをわざとらしく提示するのではなくて、ほどよい距離にポンと物語が置かれているように思える。ここから何を感じとろうと、どんなものを掴もうとあなたの自由ですよ、と言われているみたいで読み始めは戸惑うんだけど、だんだんそれが読み進めるごとに快適なものになっていく。
不思議なタイミングで、これを読んだ日にあのエルサレム賞でのスピーチが話題になった。ニュースであの映像を観て、あまりに春樹さんらしくて、それがあの場所でも変わらないことにちょっと震えてしまった。かっこいいよなあ。