横道世之介

横道世之介

横道世之介

一定の距離感を保ったドライな視点が吉田修一作品の好きなところで、本作でも登場人物が踏み込まれすぎることなく、ほどよく描かれていて読みやすかった。
上京したての大学一年生・世之介の日常が主なストーリーで、そこに彼と関わった登場人物たちの二十年後の話が挟まれていく。彼らは不意に昔を思い返し、そこに世之介という人物がいたことを思い出す。彼らが語ることで、なんとも形容しがたい世之介の不思議な魅力が明瞭になっていくあたりもすごくおもしろかった。最初はちょっとどうなんだこの子、と思っていた祥子が終盤に近付くにつれてどんどん可愛く見えてくるのには困ったなあ。中盤で世之介の未来がわかってしまうだけに、ラストの電車のシーンは余計にグッとさせられる。その後の母親の手紙はちょっとずるい。
同じように日常を淡々と描くストーリーだと、『最後の息子』『パレード』あたりが最高傑作だと思っていたけど今作がいちばん泣いた。読後感が最高でした。傑作。